● 原発・電気のQ&A
2015. 3.15 第1版

★印刷用PDFファイルはこちら! ご自由にダウンロードしてお使いください。A4ヨコで両面印刷し、二ツ折りにしてください★


 原発と電気のことについては、正しい情報が広まらず、思い込みから誤解されていることがたくさんあります。よくある疑問について、Q&A形式でお答えします!

Q.原発をやめたら火力発電に頼ることになるけど、もし中東情勢が不安定になって石油がたくさん買えなくなると電力不足が起こるのでは?

A.マスコミも含めた多くの人が誤解していますが、火力発電に使っている燃料のうち、石油が占める割合は15%程でしかなく、中東依存度は実はかなり低いのです。
 火力発電の燃料で最も多いのはその半分以上を占める天然ガス(LNG)で、オーストラリア・マレーシア・ロシア・アフリカ諸国など世界各地から幅広く輸入しています。次いで多い燃料は石炭で、主な輸入先はオーストラリア・インドネシア・ロシアなどです。
 ですから、石油の買える量がやや減ったとしても、深刻な電力不足になる可能性は低いと言えます。2017〜19年には北米等から石油より安価な長期契約の天然ガスも入ってきますので、採算性の悪い石油の発電所はさらに減らされていっています。

Q.原発を停止していても、燃料棒はあるのだから稼働中と危険度は同じなんじゃないの? だったら再稼働した方が得なのでは?

A.危険度は同じではありません。稼働中の原発は電源喪失して冷却できなくなると、燃料棒がとてつもない高温であるため、早ければ数時間で燃料溶融(メルトダウン)し、それに伴って有害な放射性物質が大量に放出されます。福島第一原発事故では、全電源喪失した1号機は地震発生からおよそ5時間後にメルトダウンが始まり(原子力安全・保安院の解析結果)、大惨事となりました。
 それに対し、停止している原発は燃料棒(あるいは使用済み燃料棒)の温度が稼働中の10分の1以下に下がっているため、もし電源喪失して冷却できない状態が続いてもメルトダウンするまでに数日かかるので、その間に対策を考えて実行する余裕ができます。
 福島第一原発事故の時に停止中だった5・6号機は、1号機同様に通常電源喪失で冷却が止まって一時緊迫した状況になったものの、事故から8日後に非常用ディーゼル発電機と仮設の電源車によって冷却ができるようになり、難を逃れました。また、その後 4号機の使用済み燃料プールの冷却が止まるトラブルがありましたが、冷却停止から2日間で上昇した温度は7℃で、危険な状態になる前に修復して冷却を再開することができました。
 もちろん、使用済み燃料プールにヒビが入って汚染水が漏れる事故も起きているといったことを考えると、稼働停止している原発も十分安全であるとは言えず、水が失われないようにプールを頑丈にしたり、約3年間のプールでの冷却が終わった使用済み燃料棒は速やかにドライキャスク(乾式密封容器)に入れるといった更なる安全策は必要です。が、電源喪失してから短時間でメルトダウンしてしまう稼働中の原発と比べると、危険度は遥かに低いと言えるでしょう。

Q.泊原発が停止しているから火力発電の燃料費が増えて、電気代が上がったんでしょ? 電気代を下げて苦しい家計や企業を助けるためには、やはり泊原発を再稼働するしかないのでは?

A.北海道電力(以下北電)は、電気料金値上げの理由を、泊原発が停止して火力発電の燃料費が年間約2000億円増えているため、と言っています。しかし、その一方で現在1ワットも発電していない泊原発の維持・管理に年間523億円が使われており、また、再稼働のための安全対策費として2013年の2月と7月に計1514億円が投入されています。その上、今後も竜巻や火山等への対策費が上積みされることが必至な状態です。が、原発の再稼働を諦めさえすれば、これらの出費がなくなる分、電気料金は今ほど上げずに済むはずです。
 それでも北電がそういった検討は一切せずに再稼働にこだわるのは、原発の廃炉を決めてしまうと3千億円を超える原発資産が負債に変わってしまい、経営破綻する恐れが生じるからだと多くの識者が指摘しています。(現に、東京ガスや大阪ガスなどの大手ガス会社では火力発電事業の営業利益が急増していますから、北電が火力発電が増えると絶対に赤字になると言うのはおかしな話です。)
 その解決策としては、例えば北電の会計の中に特別に例外を作り、「原発はとりあえず動いていなくても資産と認める」ということを取り決めれば良い、という意見があります。もちろん一般の企業では有り得ないことですが、大企業が潰れかけた時に例外適用で救済した例はいくつもありますし、原発事故のリスクや電気料金の高騰は、多くの人命や 場合によっては国の存亡まで懸かる非常事態ですから、北電に適用できないことはないはずです。
 原発関連資産を道民全員で買い取ってしまえば良い、という意見もあります。昨年3月末時点の北電の資産額のうち、泊原発1〜3号機を含む原子力発電設備は
約2372億円・これに加工中等核燃料も合わせると約3668億円です。これを全道民・約242万世帯で買い取ると1世帯あたり約15万円の負担になりますが、長期間、例えば30年の分割にすれば月々の支払いは400円ほどになり、昨秋の電気料金値上げ分よりも安く済む可能性が十分にあります。
 また、火力発電の主要燃料である天然ガスの日本の輸入量は2011〜2013年で
25%しか増えていないのに輸入額は3.5兆円から7.1兆円にほぼ倍増しています。これは、燃料費が大きく増えたのは当時の原油高と行き過ぎた円安政策のせいであることを示しており、主要経済団体らが求めている適切な為替政策をとれば、電気料金はその分今より下げられるでしょう。
 このように原発を再稼働しなくても電気料金を下げるためのアイディアはまだまだあるのに、それらを十分に検討することなく「原発を再稼働すれば安い電気料金・再稼働しなければ高い電気料金」という二者択一で考えることは道民にとって決して得策とは言えません。まずは様々な可能性を北海道全体で検討・議論することが必要ではないでしょうか。

Q.原発をやめたら、火力発電によるCO2(二酸化炭素)の排出量が増えて困るんじゃないの?

A.原発がほぼ停止状態になった2011年以降、火力発電によるCO2の排出量は
約17%増加しましたが、まず、原発を再稼働させてもこの問題は解決しません。福島第一原発事故を受けて、原発を再稼働するためには新安全基準の審査に通らなければならなくなったため、今後いくら再稼働を進めようとも実際に稼働できるのはせいぜい数基とみられ、事故以前のように30基以上の原発を同時に稼働することはもはや不可能だからです。
 逆に、原発を再稼働させずにこれを解決する方法はあります。天然ガス(LNG)を燃料とする、熱効率の高いガスコンバインドサイクル発電を増やすことです。旧来の火力発電の熱効率は30〜40%でしたが、最新式のガスコンバインドサイクル発電は熱効率が約60%にも達し、その分CO2の排出量も少なくなります。(ちなみに原子力発電の熱効率は約30%です)
 仮に、現在の発電設備のうち石炭火力と石油火力を全てガスコンバインドサイクル発電に転換した場合、石炭火力を約30%・石油火力を約15%・その分のCO2排出量は6割に減るとしてざっくりと単純計算すると、CO2排出量は現在の82%となって、
2011年以降に増加した17%分を十分相殺できることになります。
 ガスコンバインドサイクル発電はとてもコンパクトで、福島第一原発の60分の1の敷地で原発1基分の発電能力を持っているものもあります。また、建設期間も概ね3年程度と短く、燃料の天然ガスも豊富かつ安価で、将来性のある発電方法であるため、世界各国では老朽化した石油・石炭火力発電設備をガスコンバインドサイクル発電に転換する「リパワリング」が進んでいます。日本の電力会社も既に全国各地で建設を進めており、北海道では2019年に石狩湾新港のガスコンバインドサイクル発電所1号機が完成・稼働予定です。
 また、さらに将来的には、藻から作った油で発電することも期待されています。神戸大学の榎本平教授が発見した「榎本藻」という藻は、光合成だけで大量の油を作る性質があり、この油は燃やしてもCO2は一切増えず、組成も火力発電用の重油に近似しているため、これを大量生産して火力発電に使えば、まさに「夢の国産エネルギー」になり得ます。榎本藻は2013年には屋外試験プールでの安定培養に成功しており、2020年までに大量生産するための大規模プラントを立ち上げてジェット燃料として販売する計画となっています。
 今まで原発に投じていた年間4000億円もの国費と、年間1兆円を超える電力会社の原発維持・運用費用をこういったものに振り向ければ、これらの普及は今の計画よりもっと早めることができるでしょう。

Q.旭川市は泊原発から遠いから、もし泊原発で事故が起きても  放射性物質の被害はないのでは?

A.日本は偏西風の影響で西風が強く吹く傾向にあるため、もし泊原発で事故が起きれば、東側(旭川側)に向かって放射性物質が広まる可能性が高いです。実際、昨年10月に市民団体有志が泊原発近くから風船を飛ばしたところ、翌朝には旭川市(泊原発から約180km)、芦別市(同150km)、赤平市(同140km)、当別町(同100km)、札幌市中央区(同70km)に着地したことが確認されました。
 もちろん、放射性物質と風船の飛び方は全く同じではないでしょうが、福島第一原発事故では現実に約200km離れた群馬・埼玉・千葉各県の一部に国の除染基準を上回る線量の放射性物質が降下し、除染作業が進められていますし、また一方で群馬県の川魚やイノシシ・埼玉県のシイタケやニホンジカ・千葉県のタケノコやウナギなどから高濃度の放射性物質が検出され、出荷停止や販売自粛指導が相次いでいます。そのため、これらの県を含む関東や東北南部の食品や農産品に対しては、未だに輸入禁止措置をとっている諸外国も少なくなく、経済的にも莫大な被害が出ています。
 こういった事実を見ると、泊原発から約180kmの旭川市は、もし事故が起きれば同様以上の被害を受ける可能性は十分にあると言えるでしょうし、福島第一原発事故による放射性物質は約400km離れた場所にも飛散したことが確認されていますので、旭川どころかほぼ全道に被害が及ぶ可能性もあります。
 「絶対に安全なものはなく、火力発電所だって爆発するリスクはある」という意見がありますが、火力発電所は爆発しても数百キロ先まで被害が及ぶことなどなく、数日で収束できますが、原発事故の被害はこれほど広範囲かつ長い年月にわたるものであり、そのリスクの大きさは他のものとは比較になりません。


戻る

inserted by FC2 system